開業医のジレンマ

市中病院や大学病院で勤務していた時は感じなかったけれど、開業医になったからこそ実感することが 結構あります。

 

その一つは、癌(悪性腫瘍)が多いということ。勿論、医師として 癌の統計については既知ですが、開業医になって より実感として捉えるようになりました。

 

(資料:国立がん研究センターがん対策情報センター)

 

因みに癌には胃がん、肺がん、肝臓がん、大腸がん、子宮がんと色々ありますが、実は循環器疾患の中にも心臓腫瘍はあります。頻度的には全剖検例の0.1%以下とまれな疾患で、そのうちの約70%が良性腫瘍、30%が悪性腫瘍といった割合です。良性腫瘍の中では最も多いものが粘液腫で良性腫瘍の約半分、全心臓腫瘍の3割強を占めます。

 

よって心臓腫瘍の症例は少なく、また、勤務医で循環器内科医として働いている時は、他科の疾患を直接 治療することもありませんので、自然と がん疾患と関わる機会も少なくなります。しかし、開業医として診療をしていると、あらゆる科の患者さんを診ることになるため、癌が発覚することに しばしば遭遇します。

 

開業医は全ての科に目を向け、病の早期発見をする役割を担っているため、長く診てきて親しみが湧いている患者さんに癌が発覚すると、勤務医の時には感じなかった責任を深く感じてしまいます。

 

また、血液検査や超音波検査といった 当院にもある簡便な検査で、ある種の癌のスクリーニングは可能であり、自分が癌の早期発見を担う立場にあると自覚する一方、実際に日常診療をする中で、その簡便な検査を患者さんに勧めることが非常に難しいと感じるようになったのも、開業医になってからです。

 

大きな病院に入院や通院されている患者さんは、比較的 検査に積極的です。しかしクリニックには基本的には病状が安定していている患者さんが来られるので、『私は健康!』と思っている患者さんが多く、検査を拒否されることがしばしばあります。

 

癌が発覚する度に『拒否されて面倒臭がられてもレントゲン1枚 撮っていれば…』『嫌がられても、せめて半年に1回は血液検査を行っていれば…』『希望されれば、すぐにエコー検査をしたのに…』と、残念さと後悔の念が押し寄せます。

 

開業医になったことで、深く検診目的の検査の重要性を実感するようになりました。

 

何か気になる方は、いつでも気軽に検査希望を申し出てください。また、『関係ないかも』と自己解決せず、何でもご相談ください。患者さんの発言を聞くことこそが、病を見逃さない最良の方法だと考えています。

2019年09月02日