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医療ドラマ

 

 

ここ最近の1ヶ月間で『先生、ドクターXっていうTVドラマ見てる~?』と、数人の患者さんから質問された。

 

見てはいない。しかしシリーズ1は見たことがあるので『ドクターX』というドラマの概要は知っている。(ちなみに主演の米倉涼子は、私が中学生の頃、何かのドラマで4人姉妹のうちの1人を演じていた頃から好きな女優さんです。)

 

中学生や高校生の頃は毎日のようにTVドラマを見ていたが、ある時期からテレビを見なくなった。インターネットで興味があるものしか見なくなった。そして、医師になってからは、特に医療系のドラマを見る機会が減った。

 

昔は面白がってたくさんの医療ドラマを見ることができたのに、医師になると楽しめる医療ドラマが減ったというのは、とても残念なことだ。特に救急医療が絡む医療ドラマは、セリフや動作が大袈裟に感じ、何だか見ているこちらが恥ずかしくなるという変な感覚になる。当直で夜中に起こされて病院の入り口で救急車を待ち、到着した瞬間、心臓マッサージをするなんて経験は殆どの医師が経験しているわけだが、その現場に格好いい台詞なんて飛び交わない。そもそも寝起きの状態で格好つける気力も無い。目の前の人間を死なせてはならないという焦りしかない。使命感というより、全責任が自分にあるという恐怖感とも言うべきものだ。だから、わざわざドラマでそんな光景の再現を見たいとは思わないのだ。

 

それは、私が銀行員である患者さんに『半沢直樹って面白いですよね~。』と話を振ったら『まあ、現実には無いことだね。』と返答された患者さんの感覚や、裁判官を退職された後に弁護士を開業されている患者さんに『私、刑事ものとか弁護士もののドラマが大好きなんです~。』と言ったら『そうですか…。』と淡々と流される感覚と似たようなものだろう。

 

とはいえ、医療に飽き飽きしているわけでもないし、医療に携わるのを止めたいわけでもない。むしろ、日常的に無意識に医療にどっぷり浸っている。

 

①例えばバスや電車に乗っているときに、隣で病気についての会話をしている人がいると、割って入って詳しく説明したくなる。さらに、その会話内容が誤解されているような内容であった場合、ムズムズして黙っていることに苦痛を感じるほどだ。逆に何か質問された暁には、怒涛のように説明しまくってしまう。②ちょっとした雑談(笑える行動や下ネタなど)のはずが、いつの間にか、体や病気の話になってしまう。

 

いわゆる『医者あるある』だ。

 

そんな私だが、今でも楽しめる医療ものの作品がある。今でもたまに見たりして感じ入る作品がある。大仰に感動するわけでもなく、さほど興味深いわけでもないが、強く印象に残っている作品がある。

 

そんな作品(タイトル)をいくつか紹介します。

 

白い巨塔

昭和53~54年に放送された田宮二郎主演のドラマがおすすめです。そもそも原作が山崎豊子の小説なので、題材自体が傑作だ。平成になってリメイクされた白い巨塔よりも、韓国版の白い巨塔よりも、昭和に放送された白い巨塔が最も小説に忠実であり、一番おすすめです。当然、制作された時代が古いので現在の医療の実際とは全く異なるけれど、それは問題になりません。そして出演者も佐分利信小沢栄太郎金子信雄加藤嘉児玉清…など最高の役者ばかりです。

 

JIN‐仁

例えばこのドラマ(原作は漫画)を見たことが無い医師100人に『江戸時代にタイムスリップするとしたら、何を持っていく?』という質問をしたとしよう。恐らく、8割くらいの医師は『抗生剤』と答えるだろう。抗生剤の歴史は医師の常識であり、それを物語にされるとドラマチックに感じる。個人的には、中学校の時から女優 中谷美紀が大好きだったので、花魁役の彼女を見ることができて嬉しい。

 

ブラックジャック

日本の誇る漫画家、手塚治虫による作品。説明は不要と思われる。私が初めてこの漫画を読んだのは小学生の時だった。意味が分からない部分もあったが単純に楽しめた。そして大学生になって色々な疾患を学んだ後に読み返してみると、なんと面白いではないか。奇形種という婦人科疾患を学んだ時、ピノコを作ったブラックジャックは天才だと改めて実感した。自分が医師になって初めて随所に医学が散りばめられている箇所が目に入るようになり、面白さが深まった。これは医師になって得したな~と思うことの一つだ。

 

海と毒薬

遠藤周作の小説。昭和61年には映画化されており、若かりし奥田瑛二渡辺謙が主演を演じている。太平洋戦争末期に大学病院で行われた米兵捕虜への生体解剖実験を題材にしたものだ。舞台が九州帝国大(現・九州大学)医学部であり、九州県民である私にとっては印象深い。正当化されている人体実験としては、エドワードジェンナーによる種痘(天然痘の予防接種)の実験や華岡青洲による全身麻酔の実験などが有名どころだろう。しかしこの作品は、負の遺産としての人体実験が主題だ。ロシアの睡眠実験、アメリカの梅毒実験、ナチス政権下での人体実験などの非人道的人体実験に並ぶと思われる行いが描かれている。人間の残酷さを知ることができる。

 

花埋み

自分が医師になるということは、女性の医師になるということだった。だから一応、読んでみた渡辺淳一の小説です。日本初の女医といえば楠本イネ(シーボルトの娘)が有名ですが、日本で初めて医師免許を取得した医師は、荻野吟子とされています。荻野吟子の生涯を描いた小説です。

 

高瀬舟

安楽死の是非をテーマにした森鴎外の小説です。読んだというよりも、中学校か高校の国語の授業で読まされた小説。そして京都旅行に行ったら一度は高瀬川を確認し、小説を読んで思い描いていた川と目の前を流れている川の相違に落胆しながらも、ぼんやりと島流しにされる主人公(喜助)のことを考えてしまう。自分にとって解決策が無い問題というのは耐え難い。けれど「私だけじゃない、皆、何かしらの十字架を背負っているのだから…」と奮起して、悲劇のヒロインから脱する努力をしながら、笑って悩みを吐露できるよう強くありたいものです。

 

 

 

結局のこと、人間の深層心理に語りかける物語には惹きつけられるということだ。テレビや小説の中であれ、毎日の現実的な仕事の中であれ、これからもたくさんの医療ドラマに出会いたい。

 

 

2021年10月21日