切腹。
それは読んで字の如く腹を切ることであり、刃物などで自らの腹部を切り裂くという自殺の方法。日本独自の風習として海外でも知れ渡っている。
最近、ある高校生との雑談の中で切腹という単語が出てきた流れで、『首って本当に刀で切れるんですか?』という質問を受けた。勿論、私は生きている人間の首を刀で切ったことは無いが、①史実と②居合抜刀道を考慮すれば、恐らく、人間の首を刀で切断することは可能だろう。
①史実
歴史上の資料より、切腹の際に介錯人が刀で首を切断していたと記録されている。
②居合抜刀道
刀で首を切る時の感覚は、竹に畳表を巻き付けたものを刀で切る感覚に似ているのだそう。実際、現代でも居合抜刀道としての文化があり、その道の達人は巻藁などをスパッと切断してしまう。
(浅草なびより)
そして武道もさることながら、刀の切れ味も大事であろう。日本刀は1本1本が手作りの鋳造品であり、その切れ味は『試し切斬り』で確認する。日本刀は海外の刃物と比較して、格段の硬度と切れ味を備えているらしい。
(日本史大事典より)
しかし個人的には『頸部(首)の関節って、そんなに簡単に切れるのか?』という疑問は残る。何故って、学生時分の解剖学実習では、関節なんて そう簡単には切れなかったから。
医学生の解剖学実習では、御献体を隅々まで解剖させていただく。私の出身大学では、1体の御献体を1グループ4~5人で解剖した。下の写真のような体勢で、メスを握って、ゆっくり丁寧に表面から始まり深部~各臓器に至るまで全て解剖し、その構造を見て触って確認する。
(私の大学卒業アルバムより.私は卒業アルバム委員でした.)
頸部(首)の皮膚の下には、筋肉、骨、靭帯、神経、血管などが密集している。重たい脳を支える頸椎(首の骨)が有り、心臓から脳へ送られる血液が流れる血管や、脳からの指令を体幹(体)の臓器や四肢(腕や足)に伝える神経が走っているのだ。
(解剖アトラスより)
切腹の際の介錯人は、この頸部を刀で一刀両断する。一太刀で、感覚や運動を司る神経を切断し、脳への血流を遮断し、頸椎を折る。
(忠臣蔵錦絵コレクションより)
寂然不動の心境で屈強に刀を切り下せば、人間の首を切ることはできる。そうは納得しても、やはり一太刀で首を切る行為そのものには驚愕する。そして、切腹という名の儀式が日本に存在していたことに、至極、儚さを感じる。