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美容整形

 

日常診療では、面白い話をして診察室を笑いに包んでくれる患者さんが沢山います。

 

血圧も安定していて、毎日のようにジムのプールに通ってスイミングを楽しんでいる70歳代の彼は、よく彼の日常で ‘ふと思ったこと’ や ‘出来事’ について話をしてくれます。

 

とある彼の受診時に『僕ね、先生は知らないだろうけど○○のファンだったんだ!美容整形なんかしなくても、もともと可愛い顔だったんだよ。』と話し始めました。『僕の顔はそのままで十分イケてるから整形なんて必要ないけど。(笑)』と言って、美容整形についての彼の持論を面白おかしく展開され、私も看護師さんも大笑い。

 

○○とは女性歌手で、公式発表では心不全で亡くなっていた方のことでした。聞いてすぐには彼の言うとおり『誰??』と思ったのですが、後でインターネットで検索すると、私でも知っている歌を歌っていた女性の歌手でした。なぜか歌だけを記憶していて、その女性歌手の顔は記憶にありませんでした。なので改めて『ファンだったんだ』と言う彼の女性の好みを確認しながら、その女性歌手の顔写真を見てみました。

 

なるほど、美しく美容整形されているお顔です。

 

彼に限らず、患者さんから美容整形についての話題を提供されることは しばしばあります。『眼瞼下垂の手術をしたら目が可愛くなってしまったよ~!』と言って笑いながら報告してくる60歳代の男性患者さん、顔の色素沈着(シミ)の治療で皮膚科に定期通院している70歳代の女性患者さん、付け睫毛が綺麗なシングルマザーの30歳代の患者さん…。美容整形について肯定的な意見もあり、否定的な意見も散見されます。

 

そして面白いことに、美容整形や人間の容姿にさほど興味がない方も、もしも隣で ‘美容整形についての是非’ について論じられていたら、何らかの持論を主張したくなる衝動に駆られてしまいます。’美しくありたいと願う気持ちは古今東西を通じて人間が持つ感情である’ という事は、割と多くの人が理解しやすい価値観だからだと思います。だから人間社会における美への追求は、各々に興味があろうとなかろうと、今後も延々と続いていくのでしょう。

 

 

そもそも地球上の生物の大半はオスとメスの世界。

(ジャガイモ、ゾウリムシ、人体内のマラリア原虫などの世界は、雄雌の世界ではありません。)

 

(千代田之大奥 歌合 橋本(楊洲)周延画)

 

そうでなければ、私は、髪もとかない、顔も洗わない、化粧もしないような生活をしているかもしれない。

 

世の中は結果で評価されることが多く、努力=立派という価値観が建前に感じることがあります。なぜなら、努力はいつか報われるという思想に対する矛盾を感じる機会が、少なからず有るからです。親や先祖から授かった遺伝的素因やルーツ、移動困難な場所に居るという現実、生きている境遇や環境、全国民を納得させる政治、様々な試験の合否など、並大抵の努力では改変が望めない事柄は現実として存在します。それらに対して世間から批判され、どうにか立ち向かわなければならなくなった時、どうしよう…。

 

持って生まれた容姿を自嘲したり否定されたりした時、どうしよう…。

 

私は恐らく『いや、人の価値は容姿で評価されるものじゃない!』と言い張る努力をしてみるかもしれない。けれど現代社会に生きる私たちは『美容整形をする!』という努力の仕方もあるという事も、知っている。

 

 

2021年03月21日